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プロセス産業におけるデジタル化は決して容易ではありません。取組みは進められているものの、未統合で手探りの状態にあり、まるで資材はすべて揃っているのに設計図がない建設現場のようです。ここで改めて詳しく見ていきましょう。

11.11.2025 Text: Armin Scheuermann Graphics: DAQ
大規模な建設現場の画像

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが最も深刻だった時期、世界は迅速な解決策を必要としていました。重症化を防ぐ新薬の開発が求められていたのです。しかし、どのようにして実現すればよいのでしょうか。当時、新薬のコンセプトから承認までには通常12年から15年を要していました。製薬会社Pfizerは、このプロセスを加速させるためにデジタルツールを活用するという答えを見いだしました。同社はスーパーコンピュータを活用して適切な分子の探索を行い、さらに人工知能(AI)を用いて臨床試験に向けた膨大な患者データの解析やサプライチェーンの最適化を進めました。その結果、有効成分の初のラボスケールでの合成から、Covid-19向けの抗ウイルス薬Paxlovidの量産化まで、わずか18か月で実現しました。

流量計の前でAIグラスを着用している人物 ©Endress+Hauser

それ以降、デジタル化はライフサイエンス分野において不可欠なものとなっています。数十年にわたり高品質なデータを基盤としてきた研究開発の分野では、デジタル化はイノベーションを加速し、コスト削減を促進するゲームチェンジャーとなっています。プロセス産業の他の分野でも同様の成果が求められており、その実現に向けて多額の投資が行われています。経営コンサルティング会社EYによると、2022年には世界の化学企業の65%が、デジタル化が自社のビジネスに革新的または破壊的な影響をもたらすと予測していました。ライフサイエンス分野と同様に、これらの企業はますます厳しさを増す市場環境に直面しています。より迅速な製品開発、より強靭なサプライチェーン、そして新たなデジタルビジネスモデルが求められています。さらに、こうしたビジネスモデルを支えるために、企業はB2Bプラットフォームを活用し、新たな顧客層へのアクセス、顧客維持の強化、そして最終的には売上の拡大を図ろうとしています。いずれも魅力的な展望であり、企業はその実現に向けて積極的に投資を行っています。

パイロット段階で停滞

しかし、従来型のIndustry 4.0におけるデジタル化の目標に限れば、投資は控えられる傾向にあります。たとえば、自動化されたワークフロー、デジタルプロセス制御および予知保全によって製造不良の削減、ダウンタイムの回避および運用コストの低減を図る取組みがこれに該当します。この分野の大手企業であるRockwell Automationは、世界中の製造業のリーダー1,500人を対象に調査を実施しました。同社の「State of Smart Manufacturing Report」によると、プロセス産業におけるプラントの包括的なデジタル化は、依然として道半ばであることが示されています。同レポートによると、第4次産業革命が提唱されてから10年以上が経過した2025年時点でも、Industry 4.0テクノロジーに大規模投資を行っている企業はわずか20%にとどまっています。つまり、デジタル化という観点では、プロセス産業は進捗が著しく遅い大規模な建設現場のような状況にあります。そこで、仮囲いの内側をのぞき、いくつかの重要な問いに迫ってみましょう。なぜプロセスプラントのデジタル化は十分に進んでいないのでしょうか。なぜ変革の基盤はこれほど不安定なのでしょうか。そして、このデジタル化という夢の宮殿は、果たして単なる夢に終わってしまうのでしょうか。

というのも、実際にはプロセス産業の多くの企業が長らく「パイロットの袋小路」に陥っているからです。IIoT、クラウドソリューションやデジタルツインといった現在のデジタル技術を検証するために、多くの単独プロジェクトが立ち上げられています。しかし、こうしたパイロットプロジェクトはしばしばサイロ化し、拡張や広範な適用に結びつかないままにとどまっています。この現象は2018年の時点でWorld Economic Forumによって指摘されていましたが、現在に至るまで大きな変化はありません。Rockwell Automationの調査では、調査対象企業の56%が現在パイロットプロジェクトを実施していると回答しています。さらに20%の企業はまだ取組みを開始していないものの、投資計画は進行中だとしています。

重要な事実

56%

プロセス産業の企業の56%が、現在Industry 4.0のパイロットプロジェクトを実施しています。

重要な事実

20%

プロセス産業の企業の20%が、Industry 4.0技術を大規模に導入しています。

重要な事実

95%

プロセス産業の企業の95%が、すでにAIに投資しているか、投資を計画しています。

モバイル機器に表示されたデータ ©DAQ

意欲の欠如

企業は広範なデジタルトランスフォーメーションに苦戦する傾向があります。その理由について、VDI(ドイツ技術者協会)のInterdisciplinary Committee on Digital Transformation の委員長であるWilhelm Otten博士は次のように説明しています。「技術的な障壁に加え、企業が機能ごとの狭い枠組みで物事を考えがちなことや、変革プロセスの進め方にも原因があります。問題はスキルやリソースの不足だけではなく、意欲の欠如、さらには企業内の階層構造の中で十分な権限が与えられていない場合もあるのです」。

この見解を裏付けるものとして、経営・テクノロジーコンサルティング会社BearingPointとMunich University of Applied Sciencesが2024年に共同で実施した調査があります。この調査では、経営層によるデジタル化への関与と、製造におけるIndustry 4.0の導入率との間に強い相関関係があることが示されています。また、Industry 4.0と相互接続されたデジタルバリューチェーンプロセスを戦略レベルで密接に位置付けることが成功の鍵であることが明示されています。さらに、適切な組織的アプローチと従業員の理解と協力の重要性も強調されています。デジタル化の成功には、技術、人材、組織構造の整合が前提となります。

核心を突く問い

現在の実務では、多くの企業がほぼ技術面のみに焦点を当てています。さらに問題なのは、デジタル化の取組みがしばしば、実際にもたらされる価値ではなく、機能の向上そのものを目的とした技術プロジェクトやITプロジェクトとして進められている点です。これに対し、経営コンサルティング会社McKinsey & Companyは、本当に問うべきは「自社のビジネスにどのような付加価値をもたらすのか」だとしています。しかし、多くの企業は、この問いに対する明確な答えを持ちません。さらに、デジタルトランスフォーメーションの成功指標として、どのような具体的な目標や評価基準を設定すべきかという点も、同様に十分に整理されていないのが実情です。ドイツのFraunhofer Institute for Production Technologyも同様の結論に達しています。同研究所によれば、多くの企業がIndustry 4.0によって自社の生産にどのような価値がもたらされるのかを評価することに苦慮しています。その結果、投資が控えられる要因となっています。持続的な付加価値を生み出すために、Rockwell Automationのレポートでは、生産や運用上の課題の解決につながり、かつ短期間で投資回収が見込めるユースケースを特定し、優先順位を付けることを推奨しています。

このように焦点を絞り、段階的に進めるデジタル化のアプローチについて、Endress+Hauser Digital SolutionsのマネージングディレクターであるRolf Birkhofer博士も同様の見解を示しています。用途によって得られるメリットや採用される技術が異なるため、小さなステップに分けて進めることが理にかなっています。「たとえば小規模なプラントでは、測定ポイントをリモートで監視することで、高コストな現地対応を不要とし、コスト削減が可能です。大規模プラントでは、導入済みのフィールド機器を管理することで、短期間で投資回収が可能であることをすでに実証しています」。さらにRolf Birkhofer博士は、Rockwell Automationのレポートに同意し、次のように述べています。「成功するデジタル化とは、ひとつのソリューションが長期にわたって活用され、想定された期間内に投資回収が実現することです」。

Dr Rolf Birkhofer, managing director of Endress+Hauser Digital Solutions

“Successful digitalization is when a solution stays in long-term use and pays for itself within the expected timeframe.”

Rolf Birkhofer, managing director , Endress+Hauser Digital Solutions

全体像の重要性

プラントエンジニアリングにおけるデジタルツインは、デジタル化の成功事例のひとつです。これにより、企業はプラントを仮想空間内で計画、シミュレーションおよび最適化することができます。たとえばCoca-Colaは、Istanbulのハイテク工場において、充填ラインの各工程をデジタルツインでモデル化しています。デジタルツインを用いたシミュレーションにより、潜在的なボトルネックや機械の故障、効率低下を特定・防止できるほか、さまざまなシナリオの検証も可能です。その結果、不良品の削減、エネルギー消費量の低減、コスト削減が実現されています。

しかし多くの企業では、デジタルツインに必要なデータが複数のシステムやフォーマット、担当領域に分散しているため、その可能性を十分に引き出せていません。「デジタルツインは、ライフサイクル全体のデータが揃ってはじめて機能します」とEndress+Hauserのテクノロジーおよびポートフォリオ担当ディレクターであるHans-Joachim Fröhlichは述べています。「現状では、このエンドツーエンドの連続性が欠けているか、あるいはデータ同士がうまく整合していません」。

さらに厄介なのは、データの収集や処理を担うすべての人が、その労力に見合う直接的なメリットを得られるわけではない点です。「そのため、組織全体で部門横断的なビジネスプロセスに対する共通理解を持つ必要があります」とWilhelm Otten博士は説明します。機能ごとのサイロを超えたデータのシームレスな統合は、ほぼすべてのIndustry 4.0のアプリケーションにおいて、パイロットプロジェクトを拡張するための基本要件です。「プロセス産業におけるデジタル化の進展が遅い理由のひとつは、必要とされる相互運用性が依然として不足していることにあります。現時点では、企業内でも企業間でも、データをシームレスにやり取りすることができません」とHans-Joachim Fröhlichは述べています。

さまざまなフォルダの前に立つ作業者 - 頭上にクラウド ©Endress+Hauser

AI:2文字に込められた期待

朗報として、プロセス産業はこれらの課題を認識しており、対応に取り組んでいます。BearingPointとMunich University of Applied Sciencesによると、調査対象企業の69%が現在、データ取得のための垂直統合を積極的に進めています。また、この目的で58%の企業がクラウドソリューションを導入しています。一方で、企業はバリューチェーン全体にわたり、パートナーとともに標準化にも取り組んでいます。たとえば、Industrial Digital Twin AssociationやOpen Industry 4.0 Allianceといった組織における協働が挙げられます。フィールドレベルにおける新しい通信インフラであるEthernet-APLの開発でも同様であり、大容量データを高速に伝送できるこの技術について、プロセス産業は標準化と相互運用性を重視したソリューションの確立に取り組んできました。

今後数か月で、この分野における動きが加速する可能性があります。その理由は主に2つあります。第一に、競争の激化、規制要件の厳格化、サプライチェーンの逼迫、深刻化する人材不足、そしてサイバーセキュリティ強化の必要性の高まりにより、緊迫感が一層高まっていることです。第二に、デジタル化を加速させる推進力としての人工知能への期待です。製薬業界の成功事例、たとえばPfizerのケースを受けて、多くの企業はAIを万能の解決策と捉えています。Rockwell Automationのレポートによると、プロセス産業の企業の95%が、すでにAIおよび機械学習に投資しているか、今後5年以内に投資を計画しています。特に有望視されている用途としては、品質管理、サイバーセキュリティ、プロセス最適化などが挙げられます。AIは、生産をより高品質で信頼性が高く、安全で効率的なものにし、ひいてはより持続可能なものにすることが期待されています。

AIの潜在能力を最大限に引き出すには、強固なデータ基盤とシームレスなデータフローが不可欠です。そのため、企業にとってデジタル化への投資は、将来のさまざまな技術の基盤としてもますます重要になっています。「State of Smart Manufacturing Report 2025」の作成者は、次のように述べています。「産業の変革は勢いを増しています」。

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カンパニーマガジン「changes」2025年2月号 PDF, 7.3 MB
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