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盲点の解消

Ethernet-APLは、プロセス産業におけるデジタル化を支える重要な技術です。化学分野の多国籍企業BASFとパートナー企業のチームが、その導入を先導しています。BASFの優先サプライヤーであるEndress+Hauserも、そこで重要な役割を果たしてきました。

08.01.2026 Text: Armin Scheuermann Photography: BASF, Endress+Hauser, Kristoff Meller, Andreas Pohlmann, Johannes Vogt Graphics: 3st kommunikation
Ethernet-APLは、プロセス産業におけるデジタル化を支える重要な技術です。

中国・湛江に設立中のBASFの新拠点において、Kai Krüning博士はさまざまな課題への対応に追われています。同社はこれまでで最大の設備投資プロジェクトとして、拠点に数十億ユーロを投資しています。湛江の統合生産コンプレックスは、グローバル化学企業であるBASFにとって、LudwigshafenおよびAntwerpに次ぎ3番目の規模のフェアブント(統合生産拠点)となります。「現在、現地では新たなプラントの立ち上げが次々と進んでいます」とBASFでプロセス制御システムの標準化プロジェクトを率いるKrüning博士は述べています。その前段階では、センサやアクチュエータなどの各種コンポーネントの設置が行われ、その後、それらの機能および相互連携のテストが実施されます。Endress+Hauserは、このプロジェクトのサプライヤーの1社として数千点規模のセンサを供給しています。しかし、このプロジェクトの特徴はその規模の大きさだけではなく、かつてないレベルのデジタル化にもあります。

変革の中核

湛江の新拠点では、Ethernet-APL(Advanced Physical Layer)の導入が進められており、BASFはこの取組みにおいて化学業界をリードしています。この技術はプロセス産業の要件に特化して開発されたもので、1本のシールド付きツイストペアケーブルでデータと電力の両方を伝送できます。Ethernet-APLは、高い堅牢性と信頼性を備えています。これにより、危険場所においても、本質安全を確保しながら、フィールドレベルのセンサやアクチュエータに至るまで高速なデジタル通信が可能となります。「現在、多くのユーザーがEthernet-APLに大きな期待を寄せています」とEndress+HauserでEthernet-APLのマーケティングを担当するKarl Büttnerは述べています。

では、なぜこの技術はこれほど高い期待を集めているのでしょうか?この問いに答えるのは、BASFに35年以上在籍するシニアE&IエンジニアリングマネージャーのGerd Niedermayer氏です。同氏のオフィスは、LudwigshafenにあるBASFの広大なフェアブントの建物のひとつにあります。「私たちは、資産管理、予防保全、プロセス最適化などに活用するために、インテリジェントなフィールド機器からのデータを利用したいと考えています」と同氏は説明します。「しかし、現在のプロセス通信インフラでは、このデータへのアクセスは困難であり、場合によっては不可能なことさえあります。Ethernet-APLはこの問題を解決します」。

Dr Kai Krüning talks about Ethernet-APL and the digital transformation process.

“We see Ethernet-APL as the platform for the next steps in the digital transformation process.”

Dr Kai Krüning, automation expert at BASF

徹底的なデジタル化

プロセス産業において、フィールドレベルは、企業のデジタルダッシュボードにおける盲点となっていることが多く、また、データ高速道路の途中にある単車線区間のような存在となっています。これは、特に化学プラントにおいて、プロセス制御では依然としてアナログ信号が主流であることが原因です。ここでは、最先端のフィールド機器であっても、測定信号を制御システムに送るために信頼性の高い4~20 mA電流ループ技術が依然として使用されています。また、多くの実装では、アナログ測定信号にデジタルの診断情報やステータスメッセージを重ねて伝送するためにHARTプロトコルが組み込まれていますが、データレートは非常に低いのが現状です。フィールド機器とのデジタル通信を可能にするフィールドバスシステム(たとえばPROFIBUS PA)は、もちろん約30年前から存在しています。しかし、低帯域幅、複雑なトポロジー、さらには各種コンポーネント間の相互運用性が必ずしも円滑ではないといった実用上の制約があります。これらすべてが、エンジニアリングやフィールド機器の交換作業を非常に複雑なものにしています。

Ethernet-APLは、エンドツーエンドの最新の産業用通信への移行を意味します。 ©Endress+Hauser

プラントにおける高速インターネット

インターネットの黎明期には、データ転送は音として聞こえるものでした。旧式のアナログ電話からは、さまざまなビープ音やクリック音、ホイッスル音が入り混じった音が鳴り響いていました。電話機の受話器のマイクとスピーカー部分をアコースティックカプラーの受け口に差し込み、その音を(低速の)データストリームに変換していました。それから50年が経過した現在、私たちは光ファイバーケーブルによる高速インターネットを享受しています。これに対し、プロセス産業のプラントにおけるフィールド通信は、この間ほとんど変わっておらず、4~20 mA電流ループが依然として主流です。

Ethernet-APLは、この状況を一変させようとしています。この新技術は、センサ、アクチュエータ、バルブなど、フィールドからのデータを制御システムやクラウドプラットフォームへ直接、確実かつ高速に伝送できます。1本のシールド付きツイストペアケーブルでデータと電力の両方を伝送します。従来のフィールドバスシステムや4~20 mA/HARTループとは異なり、Ethernet-APL接続は堅牢であり、大容量データの伝送においても高速です。

APLはAdvanced Physical Layer(高度な物理層)の略です。ネットワーク分野において「物理層」とは、電気信号または光信号が伝送されるあらゆる物理的要素を指します。技術的には、Ethernet-APLは機能を絞り込みつつ特別に強化されたEthernetの一形態であり、危険場所においても安全に動作します。

Ethernet-APLでは、フィールド機器はデータをAPLスイッチに送信します。これは家庭用ネットワークのルーターのように複数の機器を接続する役割を持つ装置です。スイッチから、データはゲートウェイを介することなく、制御システムやクラウドへ直接送られます。これにより、フィールド機器からのすべてのデータがリアルタイムで利用可能となり、予防保全や詳細なプロセス分析などの用途に活用できます。言い換えれば、Ethernet-APLはエンドツーエンドの最新の産業用通信への移行を意味します。その影響は、かつてのアコースティックカプラーモデムから現在の光ファイバー接続への移行と同じ規模であると考えられます。これは、次世代のプロセスオートメーションを支えるデジタル基盤です。

Ethernet-APLに基づくこの新しいアプローチは、約10年前から姿を現し始めました。BASFのGerd Niedermayer氏は、この新技術がプロセス産業におけるオートメーション技術ユーザーの国際的な団体であるNAMURのワークショップで紹介された当時のことをよく覚えています。「Ethernet-APLは非常に多くの利点を備えているため、すぐに興味を持ちました」。実際、この技術は、多くのプロセス産業のアプリケーションで求められる堅牢性と本質安全をEthernetの優れた帯域幅と組み合わせたものです。また、最大1 kmのケーブル長にも対応しています。「Ethernet-APLは最大10 Mbit/sの伝送速度を実現し、HARTの10,000倍、従来のフィールドバスの300倍の速度を備えています。これにより、大量のデータをリアルタイムで双方向に送受信できます」。

重要な事実

33分

Ethernet-APLでは、200台の機器パラメータをダウンロードするのに必要な時間はわずか33分です。フィールドバスでは、同じダウンロードに10時間かかります。

重要な事実

10,000倍

広く使用されているHARTプロトコルと比較して10,000倍の速度を実現するのがEthernet-APLです。

重要な事実

240台

Ethernet-APLではリング型トポロジーで240台の機器を接続でき、大幅なハードウェアコスト削減が可能です。

最小限のオーバーヘッドで大きなメリット

Gerd Niedermayer氏は、物理的な伝送技術はあくまで出発点にすぎないことを当初から理解していました。このプロジェクトでは、適切な通信プロトコルに加え、機器を制御システムに統合し、機器データへのアクセスを可能にするためのインターフェースや標準も必要とされました。BASFはこれらすべての要件を整理し、ソリューションの構想としてまとめました。「私たちは、制御システムと資産管理システムの両方にデータを高速で伝送できる高性能なエンドツーエンドの通信ソリューションを求めていました。また、大きな追加オーバーヘッドなしでこれを実現する必要がありました。さらに、新しい技術には、初期投資コストおよびライフサイクル運用コストの両面でメリットが求められていました」とNiedermayer氏は述べています。このような考えのもと、グローバル化学企業であるBASFは、Ethernet-APLの開発を主導し、積極的に関与することを決定しました。「私たちは、標準化され、相互運用性のあるソリューションを求めていたため、当初からベンダーと緊密に連携することにしました」。透明性、粘り強さ、そして強い意志が求められましたが、その努力は実を結びました。測定機器、フィールドスイッチ、制御システムのメーカーと連携することで、BASFはわずか5年でEthernet-APLを市場投入可能なレベルにまで引き上げることに成功したのです。「これはまさに先駆的な偉業でした」とNiedermayer氏は述べています。

その開発パートナーの1社がEndress+Hauserでした。両社は長年にわたり緊密な関係を築いています。「私たちは数十年にわたり、BASFの指定計装ベンダーを務めてきました」とEndress+Hauserの化学エンジニアであり戦略アカウントマネージャーを務めるUdo Nalbachは説明します。「BASFは新しい技術に対して非常にオープンで、革新には早い段階から積極的に関与し、有望であれば迅速に導入します」。Nalbachは、Ethernet-APLが紹介されたNAMURのワークショップを契機に、BASFとEndress+Hauserがすぐに協力体制を築いたことを振り返ります。「私たちは、フィールドバスネットワークがこれまで本格的に普及しなかった理由など、さまざまな課題を共同で検討しました。こうした分野で得られた知見は、Ethernet-APLの開発と標準化、そしてその成功に貢献しました」。

Gerd Niedermayer talks about PROFINET instruments.

“We needed the device manufacturers to come up as quickly as possible with a comprehensive portfolio of PROFINET instruments.”

Gerd Niedermayer , senior E+I engineering manager at BASF
BASFはLudwigshafenにEthernet-APLのテストラボを設置していました。 ©Endress+Hauser

共同開発

2019年までに設計コンセプトは完成し、BASFはすでにLudwigshafenにEthernet-APLのテストラボを設置していました。そこでは、実環境に近い条件のもとで、PROFINETプロトコルに対応したセンサの試験が行われ、プロトタイプから最終製品に至るまで段階的に評価が進められました。このプロトコルは、機器通信、データ形式、および制御コマンドの送信に関する標準を規定しています。「BASFはEndress+Hauserからラボ用の最初のプロトタイプを調達し、フィードバックを提供してくれました」と初期のテスト段階を振り返りながらKarl Büttnerは述べています。「それはオープンさ、誠実さ、相互の信頼に基づく双方向のやり取りでした。そして、そういったやり取りを通してハードウェアとソフトウェアを段階的に開発していきました。LudwigshafenにあるBASFのテストラボは、Ethernet-APLの市場投入までのプロセスを大きく加速させました」。同時に、Endress+Hauserの各製造拠点のチームも、新しい通信モジュールの開発に全力で取り組んでいました。BASFのGerd Niedermayer氏は次のように説明します。「私たちは、機器メーカーに対して、幅広い測定項目に対応するPROFINET対応機器の包括的なポートフォリオをできるだけ早く揃えることを求めたのです」。

ラボから実運用へ

ラボのエンジニアと技術者は、純粋な機能面に加えて実用性についても検証しました。Ethernet-APL対応機器には、使いやすさとコスト削減の両立が求められました。設置、配線、統合はどれほど迅速かつ簡単に行えるのか。ループチェックや初期調整はどれほど迅速に実施できるのか。リモートでのパラメータ設定や故障対応はどのように機能するのか。プラント稼働中に機器をどれほど容易に交換できるのか。システムは容易にスケーリング可能か。PROFIBUS PA機器との組み合わせなど、機器をハイブリッド環境で使用できるのか。そして最も重要な点として、相互運用性はどうか。複数のベンダーの機器が混在するプロセス産業の環境において、機器は円滑に統合されるのか。これほど多くの課題と高い期待がある中で、Ethernet-APLテクノロジーは一連の負荷試験においてその強みを発揮しました。

Endress+Hauserは、BASFが定義した要件に従い、制御システムあたり240台の機器を用いた負荷試験を複数回実施しました。この試験には、複数のメーカーの240のコンポーネントが使用されましたが、それらはすべてシームレスに連携し、信頼性と堅牢性を備えたEthernet-APLベースのシステムを構成しました。「現在の世界は非常に複雑であり、単一のベンダーだけで新しい技術を実用化することはできません」とUdo Nalbachは述べています。「そのため、フィールド機器から制御システムに至るまで、エンドツーエンドでの連携が必要です。重要なのは、徹底した標準化です」。ここで重要な役割を果たすのがPROFINETプロトコルであり、フィールド機器とプロセス制御システム間の通信を担います。標準化された機器プロファイルにより、システム統合が簡素化され、機器の交換も容易かつ手間なく行えます。ドライバモデルは、機器を資産管理システムに一貫した形で統合します。また、センサデータはベンダーに依存しない形式で構造化されます。

BASFは現在、Ludwigshafenの2つの新設プラントを含む拠点で、初のPROFINET-APL対応フィールド機器の導入を進めています。グローバル化学企業であるBASFは、中国・湛江の新しいフェアブントのほとんどのプラントでこの取組みをさらに一歩進め、コンプレックス全体が設計段階からAPL対応となっています。「ここにある多くのプラントの計画段階では、PROFINET-APL対応機器のフルポートフォリオがいつ利用可能になるかはまだ分かっていませんでした」とKai Krüning博士は説明します。そのため、制御システムからフィールドスイッチに至るまでPROFINET技術を採用する、APL対応の移行パスが選択されました。BASFはこれに先立ち、Endress+Hauserとの協力のもとで、ネットワークのリング型トポロジーについて包括的なテストを実施していました。このインフラはPROFIBUS PAとPROFINET-APL機器の並行運用をサポートするため、BASFはまずPROFIBUS PA機器でプラントを構築する柔軟性を確保していました。「今後、機器の交換が必要になった場合には、APL対応機器に置き換えることができます」とKrüning博士は述べています。実際、湛江の2つのプラントにはすでにEthernet-APL機器が導入されています。「そのうちの最初のプラントが稼働を開始したところです」とKrüning博士は説明します。

BASF Group

BASF Groupは、ドイツのLudwigshafen am Rheinに本社を置く上場化学企業です。売上高で世界最大の化学企業に位置付けられています。2024年度には、従業員数111,822名、92カ国で事業を展開し、生産拠点数235ヵ所という実績を記録しています。これには、Ludwigshafen(ドイツ)、Antwerp(ベルギー)、Freeport(米国テキサス州)、Geismar(米国ルイジアナ州)、Kuantan(マレーシア)、南京(中国)にある6つの統合フェアブントが含まれます。中国・湛江では7番目のフェアブントが現在建設中です。フェアブントのコンセプトはBASFの重要な強みのひとつであり、生産設備をインテリジェントに連携・制御するとともに、資源効率に優れ、CO2排出を最適化し、安定して制御可能な生産を実現します。

保全部門からの高い評価

Kai Krüning博士は、プラント運用、保全および資産管理に関わるすべての従業員が新技術について十分なトレーニングを受けるよう徹底しました。そして、中国でのメガプロジェクトを高く評価しています。「Ethernet-APLはPROFIBUS PAと比べて、試運転やループチェックがより迅速に行えます。現地の同僚からも、扱いがはるかに容易であり、資産管理システムを通じたパラメータ設定もシンプルになったと聞いています」。Gerd Niedermayer氏も、Ethernet-APLがこれまでのところ期待に応えていると述べています。「特にエンジニアリングおよび試運転の面で、大幅なハードウェアコスト削減が実現しています」。

Ethernet-APLはプロセス産業におけるゲームチェンジャーとなるのでしょうか?また、デジタル化を加速する触媒となるのでしょうか?これらの問いに、Karl Büttnerは「ブラウンフィールド(既存設備の改修)プロジェクトでは、まだいくつかの課題が残っていますが、グリーンフィールド(新設)プロジェクトでは、十分な可能性が示されています」と答えています。同僚のUdo Nalbachもこれに同意します。「この技術は、従来のフィールドバス技術よりもはるかに広く普及するでしょう。現在では、4~20 mAのプラントを新たに構築する理由はほとんどありません」。湛江でBASFの将来を形作る取組みに関わっているKai Krüning博士も同様の見解を示しています。「私たちは、Ethernet-APLをデジタルトランスフォーメーションの次の段階を支える基盤と捉えています」。そして、30年以上にわたりプロセス産業に携わってきたGerd Niedermayer氏にとって、その目標は明確です。「私たちは最初のマイルストーンを達成しました。今後はこの道をさらに進み、Ethernet-APLを業界標準として確立していくことが課題です」。

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Company magazine 'changes' 2/2025
How digitalization is gathering pace
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