グリーンアンモニア製造による持続可能性の推進
アンモニアは、肥料や多くの日用品に欠かせません。産業界がネットゼロの取り組みを進める中、グリーンアンモニアには炭素削減の大きな可能性が秘められています。しかし、その大規模な生産が可能になるまでには、いくつかの課題を克服する必要があります。

要約
- 肥料製造、医薬品、冷暖房空調設備、その他のさまざまな産業で使用されるアンモニアは、世界人口や他の現代社会システムを支えるために不可欠です。
- アンモニアは主にハーバー・ボッシュ法で製造されますが、この方法はこれまで化石燃料から得られる水素に依存しており、温室効果ガスの排出の原因となっています。さらに、このプロセス自体は、従来、化石燃料エネルギー源によって動作していました。
- 窒素はアンモニア製造のもう1つの主要成分であり、従来の製造方法では同様に化石燃料由来のエネルギーが必要です。
- 動力源として太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギーを活用し、水の電気分解やその他のプロセスを使用してグリーン水素を製造することで、炭素排出量の少ないグリーンアンモニアが生成されます。
- 再生可能エネルギーのインフラや電解槽の初期費用が高いことが、現在、グリーンアンモニアの普及を妨げています。しかし、これらの技術が成熟するにつれてコストは低下し、グリーンアンモニアの競争力が高まると期待されています。
- アンモニアには、漏れ検知システムや慎重な取扱方法など、厳格な安全手順が必要です。製造プロセスの監視と最適化、効率と安全性の向上を図る上で、高度な計装機器が重要な役割を果たします。
産業向けの汎用性の高い化学物質
アンモニアは窒素と水素のみで構成される化合物であり、現代社会における数多くの日常的な用途に不可欠です。最も重要な点として、アンモニアは肥料の主要な窒素源として食糧生産に重要な役割を果たしており、増加する世界人口に十分な食料を供給できる農業を可能にすることです。
農業以外にも、アンモニアは以下のようなさまざまな工業プロセスアプリケーションで広く使用されています。
- 化学製品製造:プラスチック、繊維、染料、爆薬など、さまざまな製品の原料となります。
- 医薬品製造:さまざまな原薬の出発物質として、またpH制御のために使用されます。
- 冷暖房空調設備:効率的な伝熱特性により、冷媒として使用されます。
- 食品産業:添加物や保存料として使用されます。
- 水処理:有機殺菌を促進するクロラミンを生成することで、水道を浄化します。
- 洗浄製品:脱脂・殺菌特性があるため、多くの家庭用洗剤の主成分となります。
- 繊維製造:生地の滑らかさと染料との親和性を高めるために仕上げ工程で使用されます。
アンモニアは多くの産業において重要な化学物質となっていますが、従来のアンモニア製造方法は環境に影響を与えるため、より環境に配慮した代替方法を探す必要があります。
ハーバー・ボッシュ法による従来のアンモニア製造
アンモニアは主にハーバー・ボッシュ法で製造されます。この方法では、高温高圧かつ触媒が存在する状態で、窒素と水素が結合されます。

以下の各工程があります。
- 窒素抽出:窒素(N2)は、空気分離装置を使用し、液化と蒸留のプロセスを経て空気から抽出されます。または、圧力スイング吸着法では、特殊な吸着剤を用いて窒素分子を選択的に捕捉します。
- 水素製造:水素(H2)は、一般的に、水蒸気メタン改質法または自己熱改質法によって生成されます。
- アンモニア合成:精製された窒素ガスと水素ガスは混合され、高圧(> 200 atm/2,940 psi)および高温(> 450 °C/842 °F)で触媒(通常は鉄)に通されます。一部の元素窒素と元素水素が生成され、これらが結合してアンモニア(NH3)が形成されます。
- アンモニアと残留水素および窒素の冷却:ガスは450 °C/842 °Fを超える温度でリアクタから排出され、排熱ボイラーを兼ねた熱交換器によって冷却されます。これにより過熱蒸気が発生し、この蒸気はその後、発電ユニットで使用されます。
- アンモニア分離:混合ガスが約-40 °C(-40 °F)まで冷却されることで、アンモニアが凝縮し、その高い沸点により未反応の窒素ガスおよび水素ガスから分離できます。未反応ガスは、反応を完了させるためにプロセスに戻されます。
全体のプロセスは次のように表されます:N₂ + 3H₂ ↔ 2NH3
ハーバー・ボッシュ法はエネルギー集約型であり、ブラウン水素、ブラック水素、グレー水素の製造プロセスは温室効果ガス(GHG)排出の一因となります。このような環境への影響により、持続可能な資源からのグリーン水素と、再生可能エネルギーによる窒素製造に対する需要が高まっています。
グリーンアンモニア製造
さらに詳しい情報
世界の二酸化炭素排出量の約1.8 %は、アンモニアの生成に使用される水素の製造によって占められており、これは航空産業全体に匹敵する量です。
グリーンアンモニア製造に必要なのは、空気、水、そしてさまざまなプロセスの動力源となる再生可能エネルギーという3つのシンプルな要素です。
空気分離装置は、低温蒸留法または圧力スイング吸着法を用いて大気から窒素を抽出します。低温蒸留法は、空気を極低温に冷却し、アンモニア製造に必要な窒素を含む成分ガスを、それぞれの沸点の違いによって分離します。または、圧力スイング吸着法では、特殊な吸着剤を用いて窒素分子を選択的に捕捉します。

低温蒸留プロセスの概要
グリーンアンモニアの主な特徴は、再生可能エネルギーによる水の電気分解によって生成され、ゼロエミッションを実現するグリーン水素を使用することです。このプロセスでは、水分子をその構成要素である水素原子と酸素原子に分解し、水素ガスをアンモニア合成の原料として採取し、無害な酸素を空気中に放出します。電気分解は主に、成熟した検証済みの技術であるアルカリ電解槽、または、コストは高いものの、より高効率で応答時間が速いことで知られるプロトン交換膜(PEM)電解槽を用いて行われます。
その後、窒素と水素はハーバー・ボッシュ法によって反応しますが、二酸化炭素排出量は削減されます。生成されるアンモニアが「グリーン」と分類されるためには、経路に沿ったすべてのプロセスが再生可能エネルギーで動作している必要があります。
アンモニアは、アンモニアクラッキングプロセスによって水素に分解することも可能ですが、この反応は大量のエネルギーを消費し、触媒が存在する状態で600 °C/1,112 °Fの熱を必要とします。アンモニアは純粋な水素よりも扱いやすく、大量に貯蔵することも容易なため、このプロセスは水素を必要とする一部のアプリケーションに使用されます。
経済的課題の克服
多くの低炭素プロセスと同様に、グリーンアンモニアの生産規模を拡大するには、インフラの制限や製造コストの高さといった課題があります。第一に、再生可能エネルギー分野は、急成長を遂げているとはいえ、工業製品や消費者製品の需要を満たすために必要な、従来システムのグリッド統合や電力貯蔵のレベルにはまだ近づいていません。同様に、グリーン水素製造用の電解槽も、規模を拡大するためには依然として多額の投資が必要です。
しかし、持続可能な技術が成熟し、スケールメリットが実現すれば、グリーンアンモニア製造のコスト競争力はますます高まると考えられます。近年、再生可能エネルギーのコストは低下傾向にあり、この傾向は今後も続き、グリーン水素とグリーン窒素はより経済的になると予想されます。
また、アンモニアは、炭素を含まないエネルギーキャリアとして試験的に使用されており、一部のアプリケーションでは直接燃焼にも使用されます。
- 太陽光発電や風力発電の断続性の課題に対処することを支援します。さらに、エネルギー密度が高いことから、従来は二酸化炭素を大量に排出するアプリケーションであった海運や長距離輸送用の燃料としても検討が進められています。
安全に関する考慮事項と高度な計装機器
アンモニアは有用性があるものの、有害な化学物質であり、慎重に取り扱わなければなりません。わずか0.5 %のアンモニア濃度の空気を吸入するだけで、人間にとっては致死量となります。腐食性が高く、毒性があるため、製造、輸送、使用の際には厳格な安全手順が求められます。
標準的な個人用保護具と包括的な従業員トレーニングに加えて、漏れ検知システムは、予期せずに密閉性が損なわれた場合の危険を軽減するのに役立ちます。これらのシステムは、電気化学ガス検出器、圧力伝送器、その他の高度な安全計装機器やコンポーネントで構成されています。
さらに、アンモニア製造のために空気から窒素を抽出する空気分離装置は、純度分析用のTDLASアナライザやプロセス制御用の圧力センサなどの機器を利用しています。水の電気分解プロセスでは、導電率センサが電解質の品質を監視し、電解槽の最適な性能と寿命を保証するとともに、流量計が水素と酸素の生成を制御します。
アンモニア合成ループは、反応条件を最適化し、製品品質を確保するために、温度センサ、圧力伝送器、ガスアナライザなどのさまざまな計装機器を利用します。これらの機器は、リアルタイム制御と履歴分析の両方に継続的なデータを提供するため、安全な動作条件を維持しながら、プロセスを最適化し、効率を最大化することができます。
アンモニア分解には、正確なガス供給と最適な反応速度のための質量流量計、正確な温度測定のための熱電対、純度を確保するために生成物の水素ガス組成を監視するガスアナライザが必要です。
グリーンアンモニアの展望
アンモニアは、消費者が当然だと思っている多くの工業プロセスにおいて非常に重要なものですが、グリーンアンモニアの普及には依然として障壁が存在します。再生可能エネルギーと電気分解のインフラはまだ限られており、投資コストは高額です。さらに、アンモニアの安全な輸送と貯蔵は、承認された方法が確立されているものの、その危険性のため、慎重な検討が必要です。
グリーンアンモニアの主な利点は、アンモニア製造を化石燃料依存から切り離し、温室効果ガス排出量を削減することです。そのため、政府や産業界もグリーンアンモニアに注目しており、関係者はこれを持続可能性計画に戦略的に組み込もうとしています。これは、肥料産業や、アンモニアに大きく依存している他の多くの分野の二酸化炭素排出量を削減する道筋を提供します。
世界が今世紀半ばまでにネットゼロ構想の達成を目指す中、グリーンアンモニアの普及を推進するには、さらなる研究開発と、製造・有効利用技術の継続的な革新が欠かせません。