概要
ポリブタジエンは、自動車用タイヤをはじめ、高い弾性と耐久性が求められる製品に広く使用されている重要な工業用ポリマーです。その性能は、1,2-重合と1,4-重合によって形成される微細構造の組成に大きく左右されます。そのため、製品の品質と均一性を確保するには、製造中に微細構造を正確に特定し、定量的に評価することが重要です。ラマン分光法は、再現性に優れた迅速かつ効率的なインライン分析を実現します。
利点:ラマン分光法による迅速かつ再現性の高いポリマー分析
最大12時間
¹³C NMRと比較した1回の分析あたりの時間短縮
±1%
再現性
- 数時間かかる分析を数分に短縮 — ¹³C NMRでは最大12時間を要する微細構造の定量分析を、ラマン分光法なら数分で完了できます。
- ±1%の再現性 — ラマン分光法では再現性の高い測定結果が得られるため、品質管理やプロセス監視に適しています。
- サンプル調製が不要 — 非破壊測定のため、サンプルに追加の処理を施すことなく直接分析できます。
課題:微細構造の信頼性の高い測定
なぜポリブタジエンの微細構造が重要なのか
ポリブタジエンは、工業的に最も重要なポリマーの1つであり、ゴムとしての生産量は40億ポンドを超えています。高い弾性、耐摩耗性や機械的強度を備えているため、タイヤやゴルフボールなどの耐摩耗性が求められる製品に適しており、ポリマー添加剤としても利用されています。1,2,3 ポリブタジエンの機械的特性や弾性は、その分子構造、すなわち微細構造に大きく左右されます。
ポリブタジエンの微細構造
ポリブタジエンには、主に1,2-ビニル型、1,4-トランス型、1,4-シス型の3種類の微細構造があります。1,2-重合は、1,4-重合に比べると重要度は低いものの、この反応によって得られるポリマーは、他のポリマー製品の剛性を高める添加剤として利用されています。このポリマーは、ポリエチレン型の主鎖にビニル基が側鎖として結合した構造を持ち、不飽和結合は側鎖に存在します。ビニル基が結合する炭素原子は不斉中心となるため、ポリマーの立体規則性にはアイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックの3種類があります。一般に、ビニル含有量の多いポリブタジエンは、ビニル含有量の少ないものより熱安定性が低い傾向があります。一方、ブタジエンの重合では1,4-重合がより重要です。この反応は、非極性溶媒中でアルキルリチウム系開始剤を使用するアニオン重合によって進行します。1,4-重合では主鎖に二重結合が残り、1,4-シス型と1,4-トランス型の2種類のポリブタジエンが生成されます。1,4-トランス型ポリブタジエンは、分子鎖が長く、主鎖中の二重結合の配置によって優れた耐久性と耐摩耗性を示します。これに対し、1,4-シス型ポリブタジエンでは分子鎖が折れ曲がり、結晶化が妨げられるため、柔軟性の高いゴムが得られます。シス異性体はトランス異性体に比べて融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)、結晶化度が低く、優れたエラストマー特性を示します。特に高シス型ポリブタジエンは、使用中に生じた切れ目や裂け目、亀裂の進展を抑える優れた耐亀裂成長性を備えています。この特性はタイヤ用途で特に重要です。実際の重合系では複数の反応が進行することが多く、生成物には異なる微細構造が混在しています。
ポリブタジエンの微細構造測定における分析上の課題
ポリブタジエンの微細構造をリアルタイムで迅速かつ正確に特定できれば、製造プロセス中に条件を調整したり、反応が停滞した際に適切なタイミングで触媒を添加したりできます。微細構造の測定には、従来から熱分析、クロマトグラフィー、分光分析などの技術がラボで利用されてきました。しかし、ポリブタジエンの微細構造をインラインまたはアトラインで測定するには、いくつかの分析上の課題があります。そのため、プロセス制御や日常的な品質保証に必要な、信頼性の高いデータを迅速に取得することは容易ではありません。ポリブタジエンサンプルの微細構造の特定には、¹H NMR、¹³C NMR、赤外分光法(IR)、ラマン分光法など、さまざまな分光分析技術が使用されてきました。Franklandらがこれらの技術を比較した結果、再現性と正確性を兼ね備えた結果が得られたのは、¹³C NMRとラマン分光法のみでした。2
Endress+Hauserのソリューション:ラマン分光法による微細構造分析
ポリブタジエンのラマン分光分析
ラマン分光法は、ポリブタジエンの微細構造の特性評価に特に適しています。これは、1,2-ビニル型、1,4-シス型、1,4-トランス型の各構造におけるC=C結合の伸縮振動が、強いラマン散乱を生じるためです。それぞれの振動に対応して、1639、1650、1664 cm⁻¹付近に強いラマンバンドが現れます。ラマン散乱強度はサンプル中の成分濃度に正比例するため、これらのバンドの強度を利用してポリブタジエンサンプルを定量分析できます。ただし、各バンドは互いに重なり合うため、バンド面積を正確に求めるには、通常、多変量解析やカーブフィッティングを使用します。
図1のラマンスペクトルは、785 nmの近赤外(NIR)レーザーを使用したラマンアナライザで取得したものです。5秒間の測定を3回実施し、その結果を平均化しました。ポリブタジエンの微細構造の特定には、1600~1700 cm⁻¹のスペクトル領域を使用しました。この測定方法では、炭素間二重結合の強い振動信号を検出し、各微細構造に対応する明確なスペクトルバンドを確認できます。
- 1,2-ビニル型:約1639 cm⁻¹
- 1,4-シス型:約1645 cm⁻¹
- 1,4-トランス型:約1669 cm⁻¹
複数の微細構造が混在するサンプルでは、スペクトルバンドが重なり合う場合があります。しかし、ラマン散乱強度は濃度に比例するため、これらの信号を利用してポリマーの組成を定量的に求めることができます。重なり合うバンドは、一般的なカーブフィッティングや多変量解析によって分離でき、各成分の特性を正確に評価できます。ある事例では、ポリブタジエン混合物のスペクトルにカーブフィッティングを適用することで、1,4-トランス型、1,2-ビニル型、1,4-シス型の各ポリマーを正確に測定し、±1%以内の再現性が得られることが実証されました。2 また、使用したサンプリング方式は、プロセス現場での直接監視にも対応していました。
ラマン測定は短時間で実施でき、測定システムをプロセスラインに直接設置してインライン測定を行うことも可能です。また、DCS、PLC、SCADAなどのプロセスオートメーションシステムとの統合にも対応しています。このように、ラマン分光法は、インラインでのプロセス監視や制御に必要なポリブタジエンの微細構造を評価するうえで、強力かつ効率的な測定技術です。
結論
ラマン分光法は、ポリブタジエンサンプルの微細構造を特定するうえで、特に製造プロセスでの用途に適した測定技術です。主要な3種類の微細構造を構成する各成分の濃度を測定でき、わずか数秒で再現性の高い定量データが得られます。
参考文献
- International Institute of Synthetic Rubber Products (IISRP). “What is Synthetic Rubber?” http://www.iisrp.com/synthetic-rubber.html (accessed March 2003).
- Frankland, J.A.; Edwards, H.G.M.; Johnson, A.F.; Lewis, I.R.; Poshyachinda, S. “Critical assessment of vibrational and NMR spectroscopic techniques for the microstructure determination of polybuta-dienes.” Spectrochimica Acta, Vol. 47A, 1991, 1511.
- Yoskioka et al. Pure & App. Chem., Vol. 58, No. 12, pp. 1697—1 706, 1986.